1903年は、全てのブルースファンにとって記念すべき年である。
先述したように、厳密な意味でのブルースの始まりはそれ以前に遡るが、1903年が『ブルース生誕の年』とされるのには、次のような秘話が隠されている。
「1903年、私がミシシッピ州デルタ地帯のタトワイラーという駅でうとうとしていると、一人の黒人がギターを爪弾き始めた。彼は、ナイフを弦に押し付けてハワイアン・ギターのようにスライドさせ(ボトル・ネック奏法のような物と思われる)、同じフレーズを三度繰り返して歌い、ギターをそれに呼応させた。それは、私が今までに聴いたどんな音楽とも違っていた。」
「ブルースの父」と呼ばれる、WC・ハンディのエピソードだ。
ハンディはこの時の経験が忘れられず、未知なる音楽『ブルース』を求めてデルタ地帯を駆けずり回る。
そして、そこで得た経験とインスピレーションをもとに、1909年に『メンフィス・ブルース(原題ミスター・クランプ)』を発表する。
そして来たる1912年、これが世界で初めてのブルースの楽譜として出版されるのだ。
しかし、楽譜としてのブルースが出版された1912年ではなく、ハンディがブルースと“出会った”この1903年が、ブルース生誕の年とされている。
それはまるで、恋愛が成就した結婚記念日よりも、二人が出会った日を祝福する恋人同士に似ている。
ブルースとハンディ、まさにアメリカ音楽史上における“運命の出会い”であった。
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